Casuistica

このまま世界なんて胚に戻ればいい
metempsychosis of architecture.

孤独の訪れを知らぬ人はないけれど
得られる教訓には隔たりがある

稔りの異なる土地に棲むものは
介す言葉も異なるようで

繰る糸も繰る糸も綾を為さず
からからと嗤いばかりが木霊する

ここは人郷、人林
山の深谷の繁りの森は
陽の神求めて手を延ばす
今日も彼方に手を延ばす

世界は二の足を踏むほど遠くなる
身近に置きたいものほど遠くなる

自分を囲うのは他所者ばかり
立ち止まってしまえば
走る間に過ぎた景色が恋しくて
見逃すまいと留まる場所は
己の帰る場所でなし

墓も掘られぬ畔の傍
陽が沈むのも性急に
海は見果てぬ山の向こう
波に包まれし朝は
不可逆ゆえに輝かし

詩片

目の前の人の優しさの
その根本にある憎らしく汚いものを
僕はこれまでは想像にのみ判じ
怯えるばかりであったけれど

このところはしばしば
その姿を垣間見るに至る

各々多面的な人間性の
観測点が増えただけのこと
それは多分にも失望を含みながら
僕は新たなフィールドに立ちたることを
しみじみと嬉しみもする


ひとはきたない


その命題の証明が血肉を帯びれば
なお愉し

厚い厚い氷の蓋を
溶かさず踊れ寒空の下

湛えた笑顔にゃ
吹かせちゃならぬ
寂寥の風
此を枯らすから

さやさや擦り合う磨耗する
風の隙間の暮れ林

誰そ彼
故、彼方は遠く
未来到来今も来ず

草草

わたしは何ものでもあり
何ものでもない

ありふれた薔薇の一輪であり
母なる大洋の一滴であり
地平も揺らめく砂漠を舞う
砂塵の一片に過ぎない

水を求めて彷徨する旅人の
喉を傷めては吐き捨てられる
痰に絡まっては再び舞うを待つ

それだけが存在

砂塵は善でなく
さりとて悪党にも非ず

一粒のダイヤを隠す
質量の力学とその構成物

それだけが存在

自我もまた
歪な構成の一片に過ぎず
からからと嗤うは
泪も渇く自忘の徒

あゝわたしは何ものでもあり
何ものでもない

ただ風が吹き
風にまかせて舞うばかり
ただ風が吹くかぎり
風にまかれて舞うばかり

冬を迎えようと、
空の色が冴え冴えとして
空気は限りなく透明になっていくように
自分もまた見えない何かになってしまえたら
どんなに良いでしょう

縋るより先に
あなたの前から消えなくてはならない
感じるより先に
あなたの目に映る私を消し去らねばならない


わたしの人生は消えなくとも
あなたの人生において
わたしははじめからいなかった
一秒たりともいなかった


そんな幻想に焦がれて
わが身を切り刻むように
冬の風が頬を打つのを待つのです

鏡、萌芽、墓碑、⬆︎、支柱、標榜、さまざまを示す小さきモノ